~~メルマガ有機化学~~

 2008年第13号 もくじ

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4.館長の本棚 5.編集後記


 ☆今週の反応・試薬 ~ 薗頭カップリング

 末端アセチレン化合物と、ハロゲン化アリールまたはハロゲン化ビニルを、銅・パラジウム触媒の存在下でカップリングする反応。原型はCastro-Stephens反応であるが、1975年に薗頭健吉が発表した改良条件が広く用いられているためこの名で呼ばれる。また薗頭-萩原反応と呼ばれることもある。

 多くの場合ジエチルアミンやトリエチルアミンを溶媒として用い、溶解度が悪い場合はTHFなどを補助溶媒として加える。触媒としてはヨウ化銅(I)とPd(PPh3)4が多くの場合に用いられる。反応機構は下のように、銅とアセチレンから銅アセチリドが生成し、これがパラジウムにトランスメタル化して進行すると考えられる。

 触媒の失活を防ぐため、窒素雰囲気下で反応を行い、溶媒も脱酸素しておく方がよい結果を与える。特に立体障害が厳しい基質でない場合、室温でも進行する。
 多くの官能基は許容だが、アセチレンが電子求引基と共役している場合はうまく行かない。銀塩を使ってこれを解決する手段も報告されている。

(図はWikipedia:薗頭カップリングの項目より
参考文献:人名反応に学ぶ有機合成戦略


 ☆注目の論文

・全合成

Synthesis of Diastereomers of Complestatin and Chloropeptin I: Substrate-Dependent Atropstereoselectivity of the Intramolecular Suzuki-Miyaura Reaction
Yanxing Jia, Michèle Bois-Choussy, Jieping Zhu
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200800599

 複雑なアトロプ制御が見どころ。こういうのは合成藻だけど、解析が大変だろうなと思います。

Mutasynthesis of Fluorosalinosporamide, a Potent and Reversible Inhibitor of a Proteasome (p NA)
Alessandra S. Eustáquio, Bradley S. Moore
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200800177

 フッ化糖を食わせて細菌を培養し、フッ素を導入した化合物を生合成させることに成功。できた化合物はプロテアソーム阻害活性を保ち、細胞毒性が弱くなっていた。そういう手もあるのか、という感じです。

・反応

Diastereoselective Tetrahydropyrone Synthesis through Transition-metal-free Oxidative Carbon-Hydrogen Bond Activation (p NA)
Wangyang Tu, Lei Liu, Paul E. Floreancig
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200706002

 DDQでアリルエーテルのアリル位を酸化し、分子内環化させる。「金属触媒を用いないC-H活性化」といってますが、ものは言いようだなという感じもしなくもないです。

Fluorescent Naphthyl- and Anthrylazoles from the Catalytic Coupling of Phenylazoles with Internal Alkynes through the Cleavage of Multiple C-H Bonds (p NA)
Nobuyoshi Umeda, Hayato Tsurugi, Tetsuya Satoh, Masahiro Miura
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200800924

 こちらはロジウムを使うC-H活性化。ベンゼン環とアセチレン化合物からいとも簡単にナフタレン、アントラセンが出来上がります。時代は変わったという感じです。

Catalytic Asymmetric Epoxidation of Cyclic Enones
Wang, X.; Reisinger, C. M.; List, B.
J. Am. Chem. Soc.; 2008; ASAP Article; DOI: 10.1021/ja801181u

 エノンをキラルなアミンの存在下で、過酸化水素を酸化剤として不斉エポキシ化する。大変グリーンな反応です。しかしキニーネって何でもできるな。

※興味深い論文などありましたら、こちらより情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。


 ☆安全な実験のために

 今回はオキシム化合物について。

 ピバルアルデヒドのオキシム(t-BuC=NOH)と、カルボニルジイミダゾール(CDI)からピバロニトリルを合成しようとしたら、爆発的な反応が起こった。

 CDIによるオキシムの脱水は穏和に進行するよい反応ですが、基質によってこうした事故が起こりうるようです。そのほか、オキシムは蒸留などの操作、鉄など重金属の存在で爆発する可能性がありますので注意しましょう。

(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p.209より)


 ☆館長の本棚

 編集長おすすめの本をご紹介。化学分野に限らないかもしれません。

TOKYO0円ハウス0円生活

(坂口恭平著・大和書房 1575円)

 全然サイエンスの本ではなく、路上生活者の生活について書いた本です。といっても悲惨さやみじめさはかけらもありません。隅田川沿いで暮らすホームレスの鈴木さんは、路上で拾ったものに様々な工夫を加え、ブルーシートで作った「理想の家」に住んでいます。ぱりっとした服を着て、そこそこにうまいものを食い、焼酎を飲みながら同居女性と二人で楽しく暮らしていたりします。彼の生き様を見ていると、なんだか絶望するのが馬鹿らしくなるほど。全編妙なワクワク感に満たされつつ、「豊かさとは何か」なんてことについても考えさせられる、えらく面白い一冊です。


 ☆編集後記

 新潟でのサイエンスカフェ、無事終了いたしました。もっとしゃべりのスキルを身につけねばなあと思いつつ、なかなかやっている方も楽しい1時間半でした。今後、こういうこともどんどんやっていきたいなと思います。本間先生によるレポートはこちらに。

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