〜〜メルマガ有機化学〜〜

 2008年第2号 もくじ

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4..周辺領域のことば 5.館長の本棚 6.編集後記

・有機化学美術館更新情報:キニーネの物語(2)加筆 Woodwardの全合成をめぐる論争に決着。


 ☆今週の反応・試薬 〜 DMT-MM

 以前から、2-クロロ-4,6-ジメトキシ1,3,5-トリアジン(CDMT)がN-メチルモルホリン(NMM)存在下カルボン酸と反応して活性エステルを形成し、これがアミンやアルコールと反応して縮合を起こすことは知られていた。しかし1999年に神戸学院大学の国嶋らは、CDMTとNMMだけをTHF中で反応させると白い結晶(DMT-MM)が生成し、このものが縮合剤として使用できることを見出した(Tetrahedron Lett. 40, 5327 (1999))。このため国嶋試薬と呼ばれることもある。

DMT-MMはカルボン酸と反応してDMT活性エステルを作り、これがアミンと反応してアミドを与えると考えられる。

DMT-MMは水やアルコールに対しても安定であり、またDMT活性エステルはアミノリシスが速くアルコリシスが遅いため、水やアルコールを含む溶媒中でもアミド縮合が進行する。ペプチド合成に用いてもラセミ化しにくく、保護基も最小限で済む。

 ※筆者も使ってみたことがありますが、なかなか使い勝手がよい試薬です。カスは水洗浄で除けますし、反応も速い。水中で使えるので、生物学方面に応用が増えるのではないでしょうか。和光や国産化学から市販されてますが、合成も簡単です。

参考リンク:和光純薬時報(PDFファイル 5.37MB)


 ☆注目の論文

 Catalytic C-H functionnalization by metal carbenoid and nitrenoid insertion
Nature 451, 417 (2008) DOI:10.1038/nature06485

 ロジウムを使ったC-H結合へのカルベン挿入反応のレビュー。紹介されているDuBoisのテトロドトキシン全合成なんかをみていると、ああ21世紀だなあと思ってしまいます。

 Differentiation between structurally homologous Shiga 1 and Shiga 2 toxins by using Synthetic glycoconjugates
Angew. Chem. Int. Ed. 47, 1265 (2008) DOI:10.1002/anie.200703680

 二糖をクリックケミストリーの手法を用いてビオチンと結合させた糖複合体を合成し、O157などの志賀毒素のタイプを区別して釣り上げる。この合成法がまた21世紀だなあと(以下略)。

 Lithium aminoborohydrides 16. Synthesis and reactions of Monomeric and dimeric aminoboranes
J. Org .Chem. ASAP DOI:10.1021/jo702271c

 アミノボロヒドリドシリーズ。ニトリルが室温でアミンに還元できるのは使いでがあるかも。

 Total synthesis of (-)-Erinacine E
J. Am. Chem. Soc. 130, 1150 (2008) DOI:10.1021/ja7102795

 テルペン骨格に糖が融合してしまったような構造を巧妙に構築。あー、こうなってたのかなるほどなあ、とパズルが解けたときのような快感があります。

 Lipophilic polyelectrolyte gels as super-absorbent polymers for nonpolar organic solvents
Nature Materials 6, 429 (2007) DOI:10.1038/nmat1904(情報提供:ヴァルきゅーれ氏)

 高吸水性ポリマーというのがありますが、それの有機溶媒版。THFや塩化メチレンを吸収して体積にして120倍以上にもふくらむ。長鎖アンモニウムカチオンと、下記のアニオンをポリマーに組み込んだのがミソ。このアニオンはどこから出てきたのかと思ってちょっと調べたら、疎水性の高いカウンターアニオンとしてよく使われるみたいですね。こういう積み重ねがあって新しい成果が出るのだなあと思います。

※興味深い論文などありましたら、こちらより情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。


 ☆安全な実験のために

 慣れてしまうと注意がおろそかになりがちですが、化学実験には常に危険がつきものです。このコーナーでは試薬・反応など危険性情報を発信していきます。今回は過マンガン酸塩について。

 ・2,4-ジヨードトルエンをKMnO4で安息香酸に酸化しようと希硝酸中加熱したところ、白色固体が得られた。毛細管に入れてこの融点を測定していたところ、突然爆発した。

とのことです。ヨウ素がヨージル化合物(Ar-IO2)に酸化されていたようで、これは案外盲点かもしれません。この他四級アンモニウムとの塩を合成しようとして発火・爆発、硫酸と混合して大爆発などの例が報告されているそうです。

 これに限らず、酸化反応は基本的に危険と思った方が間違いありません。実験者の皆様、注意して作業に当たりましょう。
(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p.106より)


 ☆周辺領域のことば

 有機化学周辺の学問領域で、話題となっている言葉を取り上げていきます。

 合成生物学(Synthetic Biology)……生命のシステムをパーツ化して組み直すことにより、すでにある生命を改変したり、新たに創造したりする学問分野のこと。遺伝子操作によって作り出された青いバラ、紫外線を当てると光る猫などがすでに作り出されている。最近ではクレイグ・ベンターによって細菌の全ゲノムの合成がなされ、完全合成による生命の誕生も近いと言われる。

 セルロースを分解してバイオエタノールを生産する細菌を作るなどといった応用も期待されるが、危険な細菌を作ってバイオテロに用いるといった可能性もあり、倫理の面からも議論を呼んでいる。


 ☆館長の本棚

 編集長おすすめの本をご紹介。化学分野に限らないかもしれません。

 チーム・バチスタの栄光(上)
 チーム・バチスタの栄光(下)
(海堂尊著・宝島文庫)

 映画の公開も近い、傑作医学ミステリー。主人公の白鳥・田口コンビのキャラクターの面白さ、ストーリー展開など一級品の面白さで、ミステリーはあまり読まない筆者も一気読みしてしまいました。
この本の真のメインテーマは、大学病院のあり方、死因をきちんと解明することのないまま死者を葬ってしまう現状など、医学界の諸問題なのでしょう。そのあたりの本当に言いたいところを5%に抑え、95%のエンターテインメントでくるみ込んで見せた手腕は見事です。

 しかし医学系に海堂尊あり、バイオ系に瀬名秀明あり、化学ではどうなんでしょうね。本来ミステリーは化学と相性がよいものですし、あっというトリックがありそうな気もしますが。


 ☆編集後記

 2001年にStorkが口火を切った、Woodwardのキニーネ全合成問題が決着したようです。半世紀以上の歳月を超えて「神話」に挑戦状を叩きつけたStork、師の名誉を守るために戦時中の実験条件を再現しての合成実験に取り組んだWilliams、どちらも恐るべき執念という他ありません。やはり研究とは人間がやるものだなあ、と改めて思います。

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