~~メルマガ有機化学~~

 2008年第22号 もくじ

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4.館長の本棚 5.編集後記

有機化学美術館更新情報 分館:新刊と最近の仕事 (08.6.28)
                 分館:アンチ・メタセシス現象 (08.6.29)


 ☆今週の反応・試薬 ~ 宮浦-石山ホウ素化反応

 アリール(またはアルケニル)ホウ酸誘導体は鈴木-宮浦カップリングの原料として有用だが、これまではGrignard試薬とホウ酸エステルなどの反応など、強い条件を必要としていた。宮浦らは、Ar-X(X=Br, I, OTf)とジボロン酸ピナコールエステルをパラジウム触媒存在下に反応させることにより、アリールホウ酸誘導体が穏和な条件の下合成できることを見出した(J. Org. Chem. 1995, 60, 7508 DOI: 10.1021/jo00128a024)

 エステル・アミドなどの官能基はこの反応を妨げない。酢酸カリウムなどの塩基を加える事が多い。ビニルトリフラートに対しては、PdCl2(PPh3)2/KOPhなどの条件が用いられる(J. Am. Chem. Soc., 2002, 124, 8001 DOI: 10.1021/ja0202255)。

 ※最近ではワンポットでカップリングまで行う変法とか、C-H活性化と組み合わせる手段も開発され、応用範囲が広がっています。興味のある方は調べてみて下さい。

参考文献:人名反応に学ぶ有機合成戦略


 ☆注目の論文

・全合成

The total synthesis of (−)-cyanthiwigin F by means of double catalytic enantioselective alkylation

J. A. Enquist & B. M. Stoltz
Nature 453, 1228 (2008) DOI:10.1038/nature07046

全合成でNatureが来ました。ダブル不斉脱炭酸-アリル化反応、続くワンポット連続メタセシスで見事に骨格を作っています。条件検討を相当やったんだろうなと思われます。小品でもNatureに載るときは載るんですね。

Enantioselective Total Synthesis of Lycopodine
Hua Yang, Rich G. Carter, and Lev N. Zakharov
J. Am. Chem. Soc. ASAP  DOI:
10.1021/ja803613w

4環性アルカロイド。最後がなんで巻いてるかわからんとです……。

Total Synthesis of (S)-(+)-Tylophorine Via Enantioselective Intramolecular Alkene Carboamination
Wei Zeng and Sherry R. Chemler
J. Org. Chem. ASAP  DOI:
10.1021/jo801024h

 あまり大したことないのかもしれないですが、こんな発想は浮かばないなあと思ったもので。

・反応

Copper-Catalyzed Sonogashira-Type Reactions Under Mild Palladium-Free Conditions
Florian Monnier, François Turtaut, Leslie Duroure, and Marc Taillefer
Org. Lett. ASAP  DOI:
10.1021/ol801025u

 銅だけを使い、パラジウム不要の薗頭カップリング。基質にやや制約があり、条件も厳しいですが。この間も鉄を使用するバージョンがありましたが、パラジウムに頼るばかりの時代ではなくなってきてますね。

A Brønsted Acid Catalyst for the Enantioselective Protonation Reaction
Cheol Hong Cheon and Hisashi Yamamoto
J. Am. Chem. Soc. ASAP  DOI: 10.1021/ja8041542

エノールエーテルをキラルなブレンステッド酸でプロトン化し、α位に不斉を持つケトンとする。シンプルな原理できちんと結果を出すのがさすがです。

Carboxylation of Organoboronic Esters Catalyzed by N-Heterocyclic Carbene Copper(I) Complexes
Takeshi Ohishi, Masayoshi Nishiura, Zhaomin Hou
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200801857

銅-NHC触媒存在下、アリールボロン酸と二酸化炭素からアリールカルボン酸を合成。COではなくCO2を使えるところが魅力です。

Iridium-Catalyzed H/D Exchange at Vinyl Groups without Olefin Isomerization (p NA)
Jianrong Zhou, John F. Hartwig
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200801992

イリジウム触媒を用い、ビニル基についた水素をDに変える。標識化合物の合成に使えそうだが、原理がちょっとよくわからんです。

・医薬

Crystal structures of oseltamivir-resistant influenza virus neuraminidase mutants

P. J. Collins et al.
Nature 453,1258 (2008) DOI:10.1038/nature06956

タミフル耐性インフルエンザのノイラミニダーゼ結晶構造。タミフルには耐性になっているもののリレンザは有効そうとのことで、こちらの備蓄も必要になるのかもしれません。

The Design, Synthesis, and Evaluation of C7 Diversified Bryostatin Analogs Reveals a Hot Spot for PKC Affinity
Paul A. Wender and Vishal A. Verma
Org. Lett. ASAP  DOI:
10.1021/ol801235h

 簡略化したブリオスタチンの誘導体を多数合成し、原体を上回る活性のものを創出。製薬企業もこれくらいのことをやらないとなかなか新薬は出ないのかもしれません。しかし共著者が一人だけってすごいな。

※興味深い論文などありましたら、こちらより情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。


 ☆安全な実験のために

 ・テルル化合物を長期間取り扱っていると、「テルル口臭」という特殊な、本人の気づきにくい口臭が発生しやすい。

 地味に嫌な症状です。テルルが体内でMe2Teに代謝され、汗腺や肺から出てくるためと考えられます。セレンやテルルは悪臭がきつい上、毒性もあるのでよほど特別な理由がない限りは避けたい元素です。

(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p54より)


 ☆館長の本棚

 DNA (上) DNA (下)J. D. ワトソン A. ベリー著 講談社 上1140円・下1260円)

 DNA二重らせん構造の発見者、ジェームス・ワトソン本人によるDNAの物語です。二重らせん構造の解明からバイオテクノロジーの発展、そしてヒトゲノムプロジェクトに至るまでが、その最前線にあった者の目から綴られます。一人の研究者が生きている間に、こうも科学は進んでしまったのかと思わされます。読み物としても、分子生物学の入口としても大変に優れた本であると思います。


 ☆編集後記

 ふと、「飛竜」のことを思い出しました。大学時代、ルイス酸試薬なんかはシュレンクに入れた上、真空パックにして保存してたんですが、この真空パック機の名前がなぜか「飛竜」でした。使った後出しっぱなしにしておくと、「ちゃんと飛竜しとけ!」とよく怒られたものです。なんであんな機械に和風でかっこいい名前がついたか大変謎なのですが。
 ……と思って調べてみたら、「飛竜」ってのは機械ではなく真空パックの袋の方の名前であったようです。そうだったのか……。しかしこの業界は横文字ばっかりですから、こういう渋いネーミングには心惹かれるものがあるなと思う次第です。

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