~~メルマガ有機化学~~

 2008年第25号 もくじ

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4.館長の本棚 5.編集後記

有機化学美術館更新情報:本館 The Museum of Organic Chemistry
                 分館 Org. Chem. Museum Int. Ed

  「有機化学美術館」の英語版、順次公開の予定です。乞うご期待。


 ☆今週の反応・試薬 ~ 2-ヨードキシ安息香酸(IBX)

 超原子価ヨウ素化合物の一つ。穏和な条件で働く酸化剤として用いられる。2-ヨード安息香酸を臭素酸カリウム(KBrO3)またはOXONEで酸化して合成する。


IBX

 IBXはアルコールの酸化に用いることができるが、溶媒への溶解度が低いという問題があり、あまり使用されてこなかった。その代わりこれをO-アセチル化した、Dess-Martin試薬が主に用いられてきた。しかしDMSO中で反応を行うことでこれはある程度解消できる。
 特にK.C.Nicolaouが、CP-263,114の全合成研究の過程でこの試薬の新たな可能性に気づき、精力的な研究を行った。これにより、ケトンからα,β-不飽和ケトンへの酸化、1,3-ジチアンの酸化的脱保護、ベンジルアミンのイミンへの酸化などが可能であることが示された。また電子豊富な芳香環の酸化と、それに続くヘテロDiels-Alder反応により、ヘテロ環の合成も報告されている(JACS2002年10号でこれらの論文が一挙7報掲載されてIBX祭りになった)。

 ただしIBXは爆発性があり、取り扱いに注意を要する。2-ヨード安息香酸などを混合して安定にしたStabilized IBX(SIBX)も市販されている。

 参考リンク:Novel Synthetic Transformations Mediated by IBX and DMP(PDFファイル)


 ☆注目の論文

・全合成

Design and Synthesis of Ladder-Shaped Tetracyclic, Heptacyclic, and Decacyclic Ethers and Evaluation of the Interaction with Transmembrane Proteins
Kohei Torikai, Tohru Oishi, Satoru Ujihara, Nobuaki Matsumori, Keiichi Konoki, Michio Murata, and Saburo Aimoto
J. Am. Chem. Soc. ASAP  DOI:
10.1021/ja801576v

4・7・10環性の人工ポリエーテルを合成し、構造活性相関を調べる。合成法が確立されてきたからこその仕事ですが、しんどかったろうなと思います。

Total Synthesis of the Tetracyclic Sesquiterpene (±)-Punctaporonin C
Martin Fleck, Thorsten Bach
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200801534

4・5・5・7員環がからんだ、どこから手をつければいいんだと思うような構造を案外簡単に攻略しています。よく転位とか起こさないなあと思うような場所もありますが。トータル24ステップ、2.0%。

The Asymmetric Total Synthesis of (+)-Cytotrienin A, an Ansamycin-Type Anticancer Drug
Yujiro Hayashi, Mitsuru Shoji, Hayato Ishikawa, Junichiro Yamaguchi, Tomohiro Tamura, Hiroki Imai, Yosuke Nishigaya, Kenichi Takabe, Hideaki Kakeya, Hiroyuki Osada
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200802079

プロリン触媒の反応を織り交ぜつつのアンサマクロラクタム全合成。

・反応

Water-Mediated Catalyst Preactivation: An Efficient Protocol for C−N Cross-Coupling Reactions
Brett P. Fors, Philipp Krattiger, Eric Strieter, and Stephen L. Buchwald
Org. Lett. ASAP  DOI:
10.1021/ol801285g

 Pd(OAc)2とリガンドを水中でプレアクティベートしておくとカップリング反応が速いですよという話。塩化アリール相手のAr-Nカップリングが20分で終了。

Asymmetric Diels-Alder Reactions of α,β-Unsaturated Aldehydes Catalyzed by a Diarylprolinol Silyl Ether Salt in the Presence of Water 
Yujiro Hayashi, Sampak Samanta, Hiroaki Gotoh, Hayato Ishikawa
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200801408

有機分子触媒による水中不斉Diels-Alder反応。水の存在が利いているが、"in-water"型とも"on-water"型とも違うとか何とか。残念ながら筆者にはよくわからないのですが。

・医薬

N-Methylation of Peptides: A New Perspective in Medicinal Chemistry
Jayanta Chatterjee, Chaim Gilon, Amnon Hoffman, and Horst Kessler
Acc. Chem. Res ASAP  DOI:
10.1021/ar8000603

N-メチル化された環状ペンタペプチドを多数合成。これらは十分な体内での安定性を持ち、医薬候補として好適であるとする。大環状骨格にはいろいろ可能性がありそうに個人的には思っています。

・その他

Chemical Defence Strategies of Higher Fungi
Peter Spiteller
Chem. Eur. J. Early View DOI: 10.1002/chem.200800292

 キノコ類の防御物質に関する総説。中には傷つけられると青酸を発射するほとんど化学兵器みたいなやつもいて萌えます。

Energetic Nitrogen-Rich Derivatives of 1,5-Diaminotetrazole
Young-Hyuk Joo, Brendan Twamley, Sonali Garg, Jean'ne M. Shreeve
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200801886

 高エネルギー化合物(要するに爆薬)C4H6N16の合成。分子式を見るだけで逃げ出したくなります。最後のSafety Precautionだけでも見る価値があります。

※興味深い論文などありましたら、こちらより情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。


 ☆安全な実験のために

 市販のニトロメタンに、Naディスパージョンを室温で加えていたら、突然激しい爆発が起こった。

 近年ニトロアルドール反応(Henry反応)は最近注目を集めていますが、ニトロアルカンは容易に爆発を起こすことが知られているため、危険も伴うことを頭に入れるべきでしょう。また低級ニトロアルカンの蒸気を吸い込むことによって、粘膜などを傷めるケースも報告されています。

(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p214より)


 ☆館長の本棚

 香りの愉しみ、匂いの秘密 (ルカ・トゥリン著 1890円)

 「匂いの帝王」ルカ・トゥリンが自身で書き下ろした一冊。あらゆる匂いをかぎ分ける特殊な才能の持ち主である著者が、香りと分子構造の関係について異様な執念で迫ります。彼は「好きな匂いの化合物をデザインすることができるようになった」といいますが、果たしてこれは本当なのか?味覚もそうですが、嗅覚の世界も本当にわけがわからんなあと思わせます。文体がウザいと思う方もいるかもしれませんが、毎日実験室の異様な匂いに取り巻かれている有機化学者には興味深く読めると思います。


 ☆編集後記

 動体視力に関わるタンパク質に「ピカチュリン」という名前がつけられたというニュースがありました。以前「POKEMON」という遺伝子が任天堂からの抗議を受けて名前を変えさせられた一件があったはずですが、これは大丈夫なんでしょうか。
まあ何であれ、科学の話が話題になることはよいことであると思います。有機化学分野でも、あざとくない程度にシャレの利いたネーミングはあってもいいと思いますが、どんなもんでしょうか。

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