~~メルマガ有機化学~~


↑NatureChemistryのサイトにて、リサーチハイライトが見られる他、
Eメールアラートなどが受け取れます。

 2008年第30号 もくじ

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4.館長の本棚 5.編集後記

有機化学美術館更新情報 分館:BINAPを超えた触媒


 ☆今週の反応・試薬 ~ TEMPO

 2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルの略。ラジカルのまま安定に存在し、試薬として市販もされてい る珍しい化合物。N-O・結合を持つラジカルは比較的安定であるのと、周囲の4つのメチル基で立体的に保護されているためである。1960年に初めて合成 された。赤橙色、融点40度の固体である。


TEMPO

 TEMPOの有機合成における主な用途は、アルコールの酸化剤としてである。TEMPOは次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)などによってオキソ アンモニウムへ酸化され、これがアルコールを酸化して対応するカルボニル化合物へ変換する。つまりTEMPOを触媒量用いてアルコールの酸化ができること になる。共酸化剤にはNaOClの他、過酸、電気的酸化などが用いられる。


オキソアンモニウム型化合物

 通常0.2~1%のTEMPOとNaOClを用い、リン酸バッファと塩化メチレンの二相系で反応を行うことが多い。KBrを添加するとHOBrが 酸化剤として発生し、スムーズに進行する。この反応は発熱的であり、氷浴などでよく冷やして行う必要がある。大規模に行う場合には温度管理に気をつける。 二級アルコールの酸化は遅い。

 ※温度管理がちょっと面倒くさいですが、1,4-または1,5-ジオールをラクトンに酸化する時に便利な反応です。筆者はあまりやったことがないですが、愛用する人は愛用しているようです。


 ☆注目の論文

・全合成

Concise Stereoselective Synthesis of (-)-Podophyllotoxin by an Intermolecular Iron(III)-Catalyzed Friedel-Crafts Alkylation
Daniel Stadler, Thorsten Bach
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200802611

 既知の化合物から6段階、35%という高効率合成。鍵段階は塩化鉄(III)を用いた分子間Friedel-Crafts反応。

A Stereoselective Synthesis of (+)-Gonyautoxin 3
John V. Mulcahy and J. Du Bois
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI:
10.1021/ja805651g

 グアニジン2つを含むアルカロイドの全合成。随所に才能のきらめきを感じます。しかしこんな扱いづらそうな化合物、よく作る気になるなあと凡人は思ってしまうのですが。

Total Synthesis of Haterumalides NA and NC via a Chromium-Mediated Macrocyclization
Jennifer M. Schomaker and Babak Borhan
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI:
10.1021/ja8043695

 ハテルマライドは筆者も扱ったことがあるので、個人的に思い入れがある化合物だったりします。意表を突く場所での環化、思いついてもそういうことはしないだろというような方法を使って巻いてます。濃度が鍵。

・反応

Hydrodefluorination of Perfluoroalkyl Groups Using Silylium-Carborane Catalysts
Christos Douvris and Oleg V. Ozerov
Science 321,1188-1190(2008) DOI::10.1126/science.1161182

 C-F結合を切断し、C-Hへ還元してしまう手法の開発。ルイス酸としてR3Si+型のシリリウムカチオンを出すのがミソで、このためにカルボラン酸(「史上最強の酸」参照)とR3Siを組み合わせたような触媒を使用している。フロンの分解廃棄なんかにも使えそうだが、ケミストリーとして非常に面白い。

Primary-Amine-Catalyzed Enantioselective Intramolecular Aldolizations
Jian Zhou, Vijay Wakchaure, Philip Kraft, Benjamin List
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200802497

 キニーネをアミノ化した触媒を用いる分子内アルドール。キニーネに不可能はないのか。

Cross-Coupling of Cyclopropyl- and Cyclobutyltrifluoroborates with Aryl and Heteroaryl Chlorides
Gary A. Molander and Paul E. Gormisky
J. Org. Chem. ASAP DOI:
10.1021/jo801269m

 塩化アリールと、シクロプロピル(orシクロブチル)テトラフルオロボレートとの鈴木-宮浦カップリング。製薬会社的に役に立つかも。しかしXPhosは強い。

・超分子

Solvent-Free Synthesis of the Smallest Rotaxane Prepared to Date
Chi-Chieh Hsu, Nai-Chia Chen, Chien-Chen Lai, Yi-Hung Liu, Shie-Ming Peng, Sheng-Hsien Chiu
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200803056

 21員環クラウンエーテルを用いた、史上最小のロタキサン合成。最小でも21員環はいるんだなあ。

An Acid-Base-Controllable [c2]Daisy Chain
Jishan Wu, Ken Cham-Fai Leung, Diego Benítez, Ja-Young Han, Stuart J. Cantrill, Lei Fang, J. Fraser Stoddart
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200803036

 pHによって伸び縮みを制御できるビスロタキサン化合物の合成。

・その他

Crystal structure of the polymerase PAC–PB1N complex from an avian influenza H5N1 virus

Nature 454, 1123-1126 (2008)| doi:10.1038/nature07120

 トリインフルエンザウィルスのRNAポリメラーゼ結晶構造解析。ヘテロ三量体を形成しているので、こいつらがくっつくところを邪魔する薬を作ってやれば、インフルエンザ薬ができるかもという話。

※興味深い論文などありましたら、こちらより情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。


 ☆安全な実験のために

 トリメチルアルミニウムと四塩化炭素を氷冷下等モルずつ混合し、室温に上げたところ溶液が変色し、爆発した。

 一見大丈夫そうな組み合わせですが、ルイス酸性のあるAlMe3は時に思わぬものと反応します。皮膚に付着すると火傷を起こしますし、空気中にさらしたときに発生する白煙を吸い込むと、インフルエンザに似た咳と発熱を引き起こすことがあります。気をつけて取り扱うべき試薬です。

(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p159より)


 ☆館長の本棚

 医療の限界 (小松秀樹著 新潮新書 735円)

 福島での産婦人科逮捕、無罪判決の件に興味があったので購入。医療は常に不確実な行為であり、同じ治療を施しても患者によって起こることは異な る。そして医療は本質的に患者の体を傷つけ、負担を与えざるを得ない以上、事故は不可避である。しかし患者はマスコミはそうは考えず、訴訟は次々と起こ る。これによって医師は疲弊し、萎縮し、危険な行為を避けたがる。また救急医が減り、現場の負担は増す一方――。非常に勇気ある現場からの発言であると思 います。
 全く同じことが、医薬の開発にもいえるように思います。過剰に安心・安全を求める世論のために、使い方次第で人の命を救える優秀な医薬が世に出るのが阻 まれてはいないのか?筆者は現役医師の立場から、社会との接点を探るべく様々な試みをしていますが、果たして医薬の場合にはどう考えていくべきか。なかな か考えさせられる一冊です。


 ☆編集後記

 手元にあったマジックペンを見てふと思ったんですが、この名前は「何にでも書ける魔法のようなペン」ってところからついてるんですよね。今や金属やガラスに文字が書けるなんて当たり前で、誰もマジックのようだなんて思わないですが。
 化学の世界でも、例えば二重結合が自在に組み替わるとか、ほんの数mgの試料さえあれば10分で構造が解析できてしまうなんてのは、一昔前の人からすれ ば魔法以外の何者でもなかったわけで。こうやって魔法が当たり前になることが積み重なって、今の世界があるのだなあと、まあ実に当たり前のことをふと思っ た次第です。

----------------------------------------------------------------------
 メルマガ有機化学

 発行システム:『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/
 配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000257060.html

 バックナンバーはこちら http://www.org-chem.org/yuuki/melmaga/mm.html
 またバックナンバーの検索は、下記「有機化学美術館」トップの右側検索ウィンドウで可能です。

 「有機化学美術館」:http://www.org-chem.org/yuuki/yuuki.html
 「有機化学美術館・分館」:http://blog.livedoor.jp/route408/
 ご意見・ご要望はmmorg-chem.orgまで(@を半角に変換してお送り下さい)
----------------------------------------------------------------------