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 2008年第37号 もくじ

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4.館長の本棚 5.編集後記


 ☆今週の反応・試薬

 ・二酸化マンガン(MnO2)

 濃褐色の粉末で、水や各種有機溶媒にほとんど不溶。多くの場合「二酸化マンガン」と表記されるが実際には不定比化合物であり、MnOX(X=1.93~2)程度の組成比をとる。純粋に合成した二酸化マンガンは酸化力が低いが、特別な方法で製造した「活性二酸化マンガン」はマイルドな酸化剤として働く。主にアリルアルコール・ベンジルアルコールなど活性なアルコールを対応する共役カルボニル化合物に酸化する目的で用いられる。溶媒はヘキサン、エーテル類、iPrOH、塩素系溶媒など広い範囲のものが用いられる。

 選択性は高く、通常のアルコールとアリルアルコールが共存している基質でもほとんど後者のみが酸化される。ただしアセトニトリルを溶媒として用いると、通常のアルコールも比較的早く酸化される。

 1,2-ジオールは酸化的に開裂して、ジカルボニル化合物となる。またシアン化ナトリウムを共存させ、アルコール中で酸化を行うとアルコールからエステルへの酸化を行える。また、ヘテロ環の酸化的芳香環化にも用いられる。


 二酸化マンガンの酸化力は調製法に大きく左右される。市販の「活性二酸化マンガン」でもロットによって差があることがある。一般に水分含量が多くなると酸化力が落ちるため、100度以上で24時間加熱乾燥すると酸化力が回復することがある。

 ※マイルドで選択性が高く、使いやすい酸化剤です。活性が低いものを用いると、上で挙げた条件ほど簡単には酸化されてくれませんが。


 ☆注目の論文

・全合成

Total Synthesis of Thuggacin B
Martin Bock, Richard Dehn, Andreas Kirschning
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200803271

 抗結核作用を持つ17員環マクロライドthuggacinの全合成。今はヨウ化ビニルはこうやって作るのか。

Highlights in Steroid Chemistry: Total Synthesis versus Semisynthesis
Carl F. Nising, Stefan Bräse
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200803720

 注目を集める血管新生阻害剤・コルチスタチンの合成のまとめ。こうして見ると、やはりBaranのルートは半合成とはいえ際だつ。

・反応

Merging Photoredox Catalysis with Organocatalysis: The Direct Asymmetric Alkylation of Aldehydes
David A. Nicewicz and David W. C. MacMillan
Science 322, 77 - 80 (2008) DOI: 10.1126/science.1161976

 fuzi0さんよりの情報。
「MacMillan触媒で刺激的な仕事が報告されていたので紹介します。
エナミンを1電子酸化したラジカル種を利用したSOMO触媒を開発したMacMillanのグループ。今回光レドックスでよく使用されるルテニウムのビピリジン錯体を利用して酸化剤も触媒的に、アルデヒドの不斉アルキル化を進行。
反応の有用性もさることながら、有機合成に使われていないRuのビピリジン錯体を利用したという点がインパクトのある論文でした。触媒反応に使おうとする反応屋さん増えてくるんじゃないかなと思います。」

とのことです。光反応と有機分子触媒を組み合わせた新しい系。既知の手法を組み合わせて発展させ、新しい成果に結びつけた好例かも。

Catalytic Asymmetric Intramolecular Hydroamination of Alkynes in the Presence of a Catalyst System Consisting of Pd(0)-Methyl Norphos (or Tolyl Renorphos)-Benzoic Acid
Meda Narsireddy and Yoshinori Yamamoto
J. Org. Chem. ASAP DOI:
10.1021/jo801785r

 アルキンに対する分子内ヒドロアミネーション。不斉配位子としてノルボルナン骨格のNorphos, Renorphosを使用。

・医薬

Bismacrocyclic Inhibitors of Hepatitis C NS3/4a Protease
John A. McCauley, Michael T. Rudd, Kevin T. Nguyen, Charles J. McIntyre, Joseph J. Romano, Kimberly J. Bush, Sandor L. Varga, Charles W. Ross III, Steven S. Carroll, Jillian DiMuzio, Mark W. Stahlhut, David B. Olsen, Terry A. Lyle, Joseph P. Vacca, Nigel J. Liverton
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200803298

 以前このメルマガ及び現代化学の記事でも紹介した、べーリンガー社の抗C型肝炎ウィルス薬BILN-2061の改良版がメルクから登場。2つのマクロサイクルを一挙に1工程のメタセシスで構築する超荒技に出てます。思わず図書館で「ゲェ!」とのけ反って、変な目で見られてしまいました。メルク相変わらず恐るべし。

※興味深い論文などありましたら、こちらより情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。


 ☆安全な実験のために

 ・アセチレンジカルボン酸ジメチル(DMAD)を足にこぼしたら、24時間後に激しい火傷が生じた。

 Diels-Alder反応の反応剤、Michaelアクセプターとしてよく用いられる化合物ですが、1~5%くらいの希薄溶液でも皮膚につくと激しい炎症を起こします。触れてから症状が出るまでタイムラグがあるため、原因に気づきにくいのも特徴です。蒸気圧も低いため、ドラフト内で注意深く取り扱うべきです。

(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p.170より)


 ☆館長の本棚

 光化学の驚異 (ブル-バックス) 光化学協会編 講談社

 長いこと実験をしていても、光反応というのは案外やらず、なじみのないものです。この本は話題の光触媒、光合成、フォトクロミック分子、レーザー光を用いる材料化学、ナノテクに至るまで広く取り上げており、気軽に読めるように書いてあるので入門書として最適です。いろいろ知っておくと、自分の研究にもいいことがあるもんですので。


 ☆編集後記

 最近は子供の名前もずいぶん凝ったものが多くなってきて、何と読むのかわからないような、ありていにいえば親のセンスを疑いたくなるような名前も増えているようです。まあいろいろと親の願いを込めたくなるのはわかるんですが、やはり名前というのは記号でもあるので、フツーにかけてフツーに読めるものが一番ではないかと思うのです。ま、ここにあるような名前が増えてるのが現実のようで、ぐったりしてしまいますが。

 化学者が自分の合成・発見した化合物を名付ける時も、それなりに苦心・苦労はあるかと思います。「有機化学美術館」をお読みいただいている皆様ならお気づきと思いますが、筆者はこの手の命名にまつわる話がかなり好きです。先日分館に書いたインドメタシンの話などのように、すっぽりツボにはまって納得できる語源が見つかると、何だか大変嬉しいです。

 このジャンルについては「化学者たちのネームゲームという名著があるのですが、あまり本としては売れなかったようです。有機化学の本としてもレベルが高く、そろそろ続編が出ないものかと思っているのですが(お前が書けって?)。やはり化合物は化学者にとって子供のようなもので、学問的な正確性・正当性と折り合いをつけつつ、みな様々に思いのこもった名を付けたがるようです。

 で、この間同書を眺めていたら、下のような骨格に「スタウラン」という名前がついているのだそうです。「スタウロス」にはギリシャ語で「十字架」という意味があり、なるほどそのものずばりなネーミングです(ただし今は[5.5.5.5]ロゼッタンという名前が一般的であるようです)。

 「スタウロス」という名前には何か聞き覚えがある……と思ったら、プロテインキナーゼ阻害剤として有名な天然物、スタウロスポリンの名に似ていることに気づきました。そう思って構造式を見ると、確かに十字架の形をしています。


staurosporin

 筆者など8環性のがっちりした構造と、変わった連結の仕方をしている糖部分に目を奪われ、十字型などとは一度も思ったことがありませんでした。やはりあちらの人にとって十字架というのは特別な意味のある形なんだろうな、と思った次第です。

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