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 2008年 第44号 もくじ

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4.館長の本棚 5.編集後記
有機化学美術館更新情報: ブリオスタチン、Natureに登場(分館)


 ☆今週の反応・試薬

 ・二酸化セレン

 主にアリル位の酸化に用いられ、アリルアルコールを与える。

 反応機構は意外に複雑で、まず二酸化セレンとオレフィンがエン反応を起こし、生じたアリルセレニン酸が[2.3]シグマトロピー転位、さらに加水分解という過程を経てアリルアルコールを生じる。酸化されうる場所が複数ある場合、メチレンがメチル・メチンよりも優先して酸化される傾向にある。

 アリル位だけでなく、ベンジル位・プロパルギル位も酸化可能である。例えばフェノールのプロパルギルエーテルは、二酸化セレンで切断可能であり、保護基として用いることができる。

 また条件を強くする(ジオキサン中で長時間加熱還流など)と、アルデヒドまで酸化することも可能である。

 ※紹介しておいて何ですが、毒性が強いのでできれば使いたくない試薬です。セレン系の他の試薬はだいぶ代替が利くようになってきましたが、アリル位酸化はきれいに進行するものが少なく、いまだに二酸化セレンが使われます。天然物の修飾など、特殊用途にはまだ欠かせない試薬です。


 ☆注目の論文

・反応

Oxygen Atom "Cut and Paste" from Carbon Dioxide to a Fischer Carbene Complex
Milko E. van der Boom
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200803953

 Highlightより。Grubbsらによる二酸化炭素の「酸素メタセシス」の紹介。新しい概念の反応になるか?

Sequential Reactions with Grubbs Catalyst and AD-mix-α/β Using PDMS Thimbles
Martin T. Mwangi, Michael D. Schulz and Ned B. Bowden
Org. Lett. ASAP DOI:10.1021/ol8022215

 触媒は通さないが基質は通す内槽を使い、メタセシスとOs酸化をワンポットで進める系の開発。面白いけど、どう使えばいいんだろうか。

・全合成

Synthetic Study of (-)-Norzoanthamine: Construction of the ABC Ring Moiety
Yoshihisa Murata, Daisuke Yamashita, Katsushi Kitahara, Yohei Minasako, Atsuo Nakazaki, Susumu Kobayashi
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200804544

Total Synthesis of (-)-Norzoanthamine
Daisuke Yamashita, Yoshihisa Murata, Naotsuka Hikage, Ken-ichi Takao, Atsuo Nakazaki, Susumu Kobayashi
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200804546

 骨粗鬆症治療薬として期待を受ける海洋天然物・ノルゾアンタミンの全合成。Hajos-Parrishケトンから出発してステロイド骨格へと誘導し、ここから7環性骨格を構築。全47段階。

・医薬

A potent mechanism-inspired O-GlcNAcase inhibitor that blocks phosphorylation of tau in vivo
Nature Chemical Biology 4, 483 - 490 (2008)
doi:10.1038/nchembio.96

アルツハイマー病の発症原因とされるtau proteinに結合しているリン酸塩を糖に置換して発症を抑える…という薬。

Kestさんより情報をいただきました。ありがとうございます。

A Robust Platform for the Synthesis of New Tetracycline Antibiotics
Cuixiang Sun, Qiu Wang, Jason D. Brubaker, Peter M. Wright, Christian D. Lerner, Kevin Noson, Mark Charest, Dionicio R. Siegel, Yi-Ming Wang and Andrew G. Myers
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI:10.1021/ja806629e

 テトラサイクリン骨格を持つ化合物を、素早く多数合成する手法の開発。抗菌活性の強い誘導体を見出している。

・超分子

Synthesis of [2]Catenanes by Oxidative Intramolecular Diyne Coupling Mediated by Macrocyclic Copper(I) Complexes
Yuta Sato, Ryu Yamasaki, Shinichi Saito
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200804864

 大環状フェナントロリン-銅錯体を触媒としてアセチレンの分子内カップリングを行い、カテナン構造を構築する。その手があったか!的合成法。

・その他

Electroactive Inverse Opal: A Single Material for All Colors
Daniel P. Puzzo, Andre C. Arsenault, Ian Manners, Geoffrey A. Ozin
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200804391

 電圧を変えて電気的に酸化還元を行い、自由に色を変えられる材料の開発……らしいです。よくわからないけど凄そうな話だぞこれは。

Synthesis, Characterization, and Theory of [9]-, [12]-, and [18]Cycloparaphenylene: Carbon Nanohoop Structures
Ramesh Jasti, Joydeep Bhattacharjee, Jeffrey B. Neaton and Carolyn R. Bertozzi
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI:10.1021/ja807126u

 ベンゼン環をパラ位で多数つないで環にした「カーボンナノフープ」の合成に成功。マニアには堪えられない論文ですよ。

Unidirectional Growth of Single-Walled Carbon Nanotubes
Naoki Ishigami, Hiroki Ago, Tetsushi Nishi, Ken-ichi Ikeda, Masaharu Tsuji, Tatsuya Ikuta and Koji Takahashi
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI:10.1021/ja8080549

 コバルト-モリブデン系触媒を用い、単層ナノチューブを一方向に成長させることに成功。

※興味深い論文などありましたら、こちらより情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。


 ☆安全な実験のために

 p-クロロベンゾイルアジドをベンゼン中で70度に2時間加熱してCurtius転位を行った。得られたp-クロロフェニルイソシアナートを減圧蒸留していたら、70度を超えたところで爆発が起こった。

 転位が不完全で原料のアジドが残っていたか、加水分解でHN3が発生していた可能性があります。Curtius転位の際はトルエン・キシレンなど高沸点溶媒を使って反応を完全に進行させ、アジドを残さないよう気をつけるべきです。

(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p.153より)

 ☆館長の本棚

 化学者のための薬理学 J. G. キャノン著 江崎俊之訳 地人書簡 5600円

 理学部や工学部を出て製薬企業に入った合成屋にとって、薬理の勉強はなかなか難しいものです。体系的に教えられる機会がないと、なかなか根本的なところがつかめず苦労します(筆者のことですけど)。
 この本は少々古いですが、薬理試験の原理や薬物動態、各分野の医薬の基本的なところが網羅されており、タイトル通りケミストにとって最もありがたい本に仕上がっています。輪講などに使うテキストとしても、ぴったりなのではないかと思います。


 ☆編集後記

 ACS各ジャーナルのサイトがリニューアルされましたが、あまりの使い勝手の悪さに怒り心頭に発しているのは筆者だけでしょうか。筆者がよく行く図書館で見ると、ダイヤルアップ回線時代を彷彿とさせるレスポンスの悪さ、スクロールの遅さに、思わず画面に右後ろ回し蹴りを食らわせたくなります。
 サムネイルが最初から表示されていないのもいただけません。タイトルだけだとどうしても内容まではわかりにくいので、「Total Synthesis of ××mycin」なんて題名だけ見て、中身を読み込んでみてからがっかり、というパターンが非常に多いです。かといってサムネイルを全部読み込むと地獄の重さですし。どーにかならんのかなと思うのですが。

 ついでに言いますと、筆者の行く図書館ではどういうわけかNature系の各ジャーナルが見られません(Natureそのものは閲覧可能)。Nature Medicine、Nature Chemical Biologyなど気になる論文はあるのですが、アクセスできないでいます。というわけでこのあたりの論文に重点的に情報をいただけるとありがたいです。来年からNaure Chemistryは果たして見られるのか……。

 というわけでwebジャーナルは花盛りですが、最近はどこもこちらばかりに力が入って、紙媒体のジャーナルは立場がなくなりつつあります。弱小誌なんかは、経費削減のために紙はなくしてweb配信のみで、なんてところも出てくるかもしれません。しかし気楽にパラパラとめくれる紙媒体には、やはりwebにはないよさがあります。何気なくめくっていた論文から偶然に使える反応を発見し、困っていた化合物が作れたなんてことはずいぶんありました。webの改善(改悪?)ばかりでなく、紙媒体のよさを強調する方向も進めてほしいものだと思います。

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