~~メルマガ有機化学~~


↑NatureChemistryのサイトにて、リサーチハイライトが見られる他、
Eメールアラートなどが受け取れます。

 2009年 第1号 もくじ

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4.館長の本棚 5.編集後記
有機化学美術館更新情報: 本館・炭素のタペストリー(12/28) アセトニトリル・クライシス(1/6)(分館)


 ☆今週の反応・試薬

 ・オゾン酸化

 オゾン(O3)は強力な酸化剤で、多くの化合物を酸化することができる。最も多く用いられるのは、二重結合の酸化的開裂である。

 1,3-双極子であるオゾンがオレフィンと[3+2]付加環化し、まずモルオゾニド(1,2,3-トリオキソラン)が生成する。これが転位を起こしてオゾニド(1,2,4-トリオキソラン)へ変化し、これが分解して2つのカルボニル化合物が得られる(立体障害が大きい時など、まれにエポキシドが得られることがある)。

 この際酸素原子がひとつ余ることになるので、なんらかの還元剤で除去する必要がある。多くの場合ジメチルスルフィドやチオ尿素、トリフェニルホスフィンなどが用いられる。また水素化ホウ素ナトリウムなどを用いれば、直接にアルコールを得ることもできる。過酸化水素などで酸化的に処理すれば、カルボン酸を得ることもできる。またメタノール中、酸性で反応を行えば、直接ジメチルアセタールを得ることもできる。

 オゾンは多くの場合専用の放電装置で発生させ、-78度程度の低温で反応を行う。大量スケールでは、不用意に温度を上げたり濃縮したりすると爆発の危険がある。還元剤を過剰に加え、ゆっくりと温度を上げてから濃縮するなど、慎重な操作が求められる。また四酸化オスミウム-過ヨウ素酸ナトリウムの条件でも同形式の反応が行える(Lemieux-Johnson酸化)ので、こちらの使用も検討すべきである。

 この他、酸性・室温で反応すれば芳香環も酸化的に破壊され、カルボン酸となる。シリカゲルに基質を吸着させてオゾンを通じるという方法で、三級炭素のアルコールへの酸化、アミノ基のニトロ基への酸化も可能になる。

 ※たいていの場合きれいに進行する反応ですが、酸化反応の常でそれなりに危険も伴います。何回かやっているうちに油断して、爆発で指を吹っ飛ばされたなんて話も聞くので十分注意しましょう。


 ☆注目の論文

・反応

Easy Copper-Catalyzed Synthesis of Primary Aromatic Amines by Couplings of Aromatic Boronic Acids with Aqueous Ammonia at Room Temperature
Honghua Rao, Hua Fu, Yuyang Jiang, Yufen Zhao
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200805424

 アリールホウ酸からアニリンへの変換。銅塩、アンモニア水というシンプルな条件でB→NH2への変換が可能。

Instantaneous Deprotection of Tosylamides and Esters with SmI2/Amine/Water
Tobias Ankner and Göran Hilmersson
Org. Lett. ASAP DOI: 10.1021/ol802243d

 トシルアミド・エステルが、SmI2・アミン・水の条件でほぼ定量的、還元的にに切断できる。心の片隅にとどめておくといつの日か役立つかも。

Catalytic Carbon−Carbon σ Bond Activation: An Intramolecular Carbo-Acylation Reaction with Acylquinolines
Ashley M. Dreis and Christopher J. Douglas
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI: 10.1021/ja8066308

 ロジウム触媒によってC-C単結合を活性化し、環化を達成。分子設計の妙。

・全合成

High-Yielding Synthesis of the Anti-Influenza Neuramidase Inhibitor (-)-Oseltamivir by Three One-Pot Operations
Hayato Ishikawa, Takaki Suzuki, Yujiro Hayashi
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200804883

 すでにあちこちのブログなどで取り上げられていますが、総収率57%の驚くべきタミフル合成です。一応9段階ですが、タイトルにある通り反応操作としては3ポット。最初の工程でプロリノール誘導体を用いた環化反応を行い、一挙に5つの不斉中心が決まります。後は官能基変換だけ、全くお見事です。

Structure Determination and Total Synthesis of Bottromycin A2: A Potent Antibiotic against MRSA and VRE
Hiroyuki Shimamura, Hiroaki Gouda, Kenichiro Nagai, Tomoyasu Hirose, Maki Ichioka, Yujiro Furuya, Yutaka Kobayashi, Shuichi Hirono, Toshiaki Sunazuka, Satoshi Omura
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200804138

 MRSA・VREなど医療現場で問題となっている多剤耐性菌に有効な新規抗生物質の全合成。

Total Synthesis of a Protected Aglycon of the Kedarcidin Chromophore
Kouki Ogawa, Yasuhito Koyama, Isao Ohashi, Itaru Sato, Masahiro Hirama
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200805518

 エンジイン骨格を持つ抗ガン剤ケダルシジンのクロモフォア(発色団)全合成。不安定な構造なので、ずいぶん苦労しているようです。担当した学生さんの腕前に敬意を表します。

・超分子

A Photoreactive Ruthenium(II) Complex Tethered to a Guanine-Containing Oligonucleotide: A Biomolecular Tool that Behaves as a "Seppuku Molecule"
Stéphane Le Gac, Stéphane Rickling, Pascal Gerbaux, Eric Defrancq, Cécile Moucheron, Andrée Kirsch-De Mesmaeker
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200804503

 ベルギーのグループから発表された、ルテニウムとDNA鎖から成る、その名も”切腹分子”!何が切腹なのか、論文を見てのお楽しみ。しかし切腹って国際語なんですね。驚いたことに、各国語Wikipediaに切腹の項目が揃っています。

Discrete Self-Assembly of Iron(III) Ions inside Triple-Stranded Artificial DNA
Yusuke Takezawa, Wakana Maeda, Kentaro Tanaka, Mitsuhiko Shionoya
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200804654

 鉄イオンをテンプレートとした、人工DNA三重らせんの合成。シンプルに見えて大変なんだろうなあ、こういうのは。

Giant Dendritic Molecular Electrochrome Batteries with Ferrocenyl and Pentamethylferrocenyl Termini
Catia Ornelas, Jaime Ruiz, Colette Belin and Didier Astruc
J. Am. Chem. Soc. ASAP (Article) DOI: 10.1021/ja8062343

 壮絶な巨大デンドリマーの合成。最終物には19683個のフェロセンユニットが導入され、分子量1600万というとんでもない代物。単一分子としては、史上最大ではないでしょうか。

A New Doubly Interlocked [2]Catenane
Carlos Peinador, Víctor Blanco and José M. Quintela
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI: 10.1021/ja8088372

 シンプルな系で、複雑に絡んだカテナンの合成に成功。

・その他

The CN7 Anion
Thomas M. Klapötke and Jörg Stierstorfer
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI: 10.1021/ja8077522

 CN7ってどういう構造だ?と思って中身を見て納得。絶大な爆発力を誇る、大変ヤバい代物のようです。

※興味深い論文などありましたら、mmorg-chem.orgまで(@を半角に変換してお送り下さい)情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。

このほど、筆者が作成に関わりました「創薬化学カレンダー」を発売元からいただきましたので、情報をお寄せいただいた方にプレゼントしたいと思います。3報お送りいただいた方、先着8名ということで。できれば論文の内容に関するコメントもお願いします。どっと一気にまとめて送ってこられると大変なので、できればぼちぼちと。


 ☆安全な実験のために

 脱水剤として用いるため、塩化チオニル(SOCl2)82.5kgとDMF135kgを混合して一晩置いたところ、爆発が起こった。

 塩化チオニルやオキシ塩化リンと、DMFから得られるVilsmeier試薬はよく用いられる試薬ですが、鉄や亜鉛などのイオンが微量存在すると爆発的に分解が進行することがあり、危険です。また、この条件で発ガン性が強い塩化ジメチルカルバモイル(ClC(=O)NMe2)が発生することがありますので、こちらも注意が必要です。

(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p.277より)

 ☆館長の本棚

からだビックリ!薬はこうしてやっと効く ―苦労多きからだの中の薬物動態― 中西貴之著 1659円 技術評論社

 筆者の「有機化学美術館へようこそ」及び「化学物質はなぜ嫌われるのか」と同じ、技術評論社の「知りたい!サイエンス」シリーズの一冊。薬は体内のタンパク質に作用してその効果を著しますが、実は患部にたどり着くまでにもとんでもない難関の数々をくぐり抜けなければなりません。こうした「薬物動態」について、また最新の技術について解説された本です。

 正直言って「薬物動態についての一般向け解説書」というのは本当に売れるのか、えらく大胆な商品企画であると思いますが、上手な比喩を使って平易に書き下ろされており、大変わかりやすく仕上がっています。薬に興味がある方はもちろん、第一線の研究者にも十分読み応えのある本であると思います。


 ☆編集後記

 前回のこの欄及びブログで書いたアセトニトリル問題については、やはり結構な反響がありました。分析メーカーなんかにとっては死活問題でしょうし、医薬品などの純度検定でも決まったプロトコルというものがあるでしょうから、やはりこの問題は大きいのだと思います。ことによっては、会社や大学単位で溶媒の蒸留・回収・精製システムなどが必要になってきたりするのかもしれません。HPLCも気安く使い放題にできないことになりそうです。

 しかしそうした実験装置の問題がクローズアップされてみると、案外この面では昔から進展というものが少ないのかなとも思います。筆者が実験現場にいた15年間でも、新しい装置で便利になったといえば、自動精製装置が入ったことくらいだったと思います。反応についてはいろいろな触媒やら試薬やらが登場してずいぶん変わりましたが、スターラー、エバポレーター、分液ろうとなど実験器具はさほど変化がありません。あるガラス器具メーカーによると、明治・大正時代の実験器具には、もうそれを造れる職人がいなくなり、再現不能なものがいくつもあるといいます。その意味では、実験器具は退化しているとさえいえるかもしれません。

 化学の研究というとフラスコの中で起こる、構造式で描ける変化のことだけが問題になりますが、実際には分離・精製にかける労力というのもかなり大きなものです。このあたりを改良する研究を腰を据えてやれば、下手な新反応よりよほど化学の世界に貢献できる仕事ができるのではないか、などと思ったりもします。

----------------------------------------------------------------------
 メルマガ有機化学

 発行システム:『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/
 配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000257060.html

 バックナンバーはこちら http://www.org-chem.org/yuuki/melmaga/mm.html
 またバックナンバーの検索は、下記「有機化学美術館」トップの右側検索ウィンドウで可能です。

 「有機化学美術館」:http://www.org-chem.org/yuuki/yuuki.html
 「有機化学美術館・分館」:http://blog.livedoor.jp/route408/
 ご意見・ご要望はmmorg-chem.orgまで(@を半角に変換してお送り下さい)
----------------------------------------------------------------------