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 2009年 第4号 もくじ

1.今週の反応・試薬 2.注目の論文 3.安全な実験のために 4.館長の本棚 5.編集後記
有機化学美術館更新情報: (分館) 血液型を決める分子(1/26)


 ☆今週の反応・試薬

 ・還元的アミノ化

 ケトン・アルデヒドなどカルボニル化合物と、アミンからアルキルアミンを合成する反応。いったん酸性条件でカルボニル化合物とアミンからイミニウムカチオンを発生させ、これを還元剤で還元してアミンとする。

 還元剤としてはかつてはギ酸を用いる方法(Leuckart反応など)が用いられた。水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)を用いる方法もあるが、近年ではシアノ水素化ホウ素ナトリウム(NaBH3CN、通称シアノボロハイ)を用いる方法が一般的。NaBH3CNは酸性でも分解しにくく、還元力が弱いためカルボニルを直接還元してアルコールにしてしまう副反応が起きにくいためである。

 通常、アルコール系溶媒と酢酸の混合溶媒にカルボニル化合物とアミンを溶解し、NaBH3CNを氷冷~常温程度の条件で加えて還元を行うという処方が一般的。反応の際pHは4程度で行うことが多い(エタノール-酢酸9:1などの溶媒)。

 還元的アミノ化の特徴は、ハロゲン化アルキルを用いる方法に比べて過剰アルキル化が進行しにくいことである。ある程度立体障害のある基質であれば、三級アミンまで進行せず二級で止められる。またホルマリンを用いれば、四級アンモニウムの生成を伴わずにメチル化が可能である。

 また、ケトンと二級アミンからの三級アミン合成は、立体障害のため進行しないケースが少なくない。このように、この反応の進行はイミニウムイオンができるかどうかにかかっている。

 反応終了後は塩酸などで試薬を分解した後、塩基性に戻して抽出する。分解の際、シアンガスが出る可能性があるので注意を要する。また廃液処理も慎重に。

 こうした安全性の問題もあるため、NaBH3CNの代わりに水素化トリアセトキシホウ素ナトリウム(NaBH(OAc)3)なども用いられる。

 ※シアノボロハイを使う還元的アミノ化はBorch反応というんだそうです。知らなかった。NaBH(OAc)3は水分などで分解して失活していることも少なくないので、個人的にはピリジン-ボラン錯体(Pyr-BH3)が好みです。液体で計りやすく、長期間置いておいても安定で分解しないので結構便利です。

 画像の一部はWikipediaより加工・転載


 ☆注目の論文

・反応

Theoretical Study of the Catalysis of Cyanohydrin Formation by the Cyclic Dipeptide Catalyst cyclo[(S)-His-(S)-Phe]
Franziska Schoenebeck and K. N. Houk
J. Org. Chem. ASAP DOI: 10.1021/jo801958r

 PheとHisのジケトピペラジンが不斉シアノヒドリン化を触媒する(知らなかった)過程の理論計算による解析。まさにプチ酵素。

Selective C−H Activation α to Primary Amines. Bridging Metallaaziridines for Catalytic, Intramolecular α-Alkylation
Jason A. Bexrud, Patrick Eisenberger, David C. Leitch, Philippa R. Payne and Laurel L. Schafer
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI: 10.1021/ja808862w

 アミンのα位とオレフィンがZr触媒で環化する、「えっ、こんな反応あるんですか」的形式。ちょっとチェックを欠かすとこういうのが出てくるから油断ならない。

Catalytic Asymmetric Synthesis of 2,2-Disubstituted Oxetanes from Ketones by Using a One-Pot Sequential Addition of Sulfur Ylide
Toshihiko Sone, Gang Lu, Shigeki Matsunaga, Masakatsu Shibasaki
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200805473

 オキシランに硫黄イリドをランタン-BINOL触媒存在下反応させ、キラルなオキセタンを得る。ワンポットでケトンからオキシランそしてオキセタンまで持って行くことも可。選択性ほぼ完璧。

Enantioselective Intramolecular Friedel−Crafts-Type α-Arylation of Aldehydes
K. C. Nicolaou, Rüdiger Reingruber, David Sarlah and Stefan Bräse
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI: 10.1021/ja809405c

 MacMillan触媒とCANを併用し、分子内で芳香環とアルデヒドのα位がFriedel-Crafts型環化を起こす。6員環しか巻かない様子。しかしNicolaouの亜bすと楽との変な色遣いはどうにかならんのか。

Metal-Free Oxidative Cross-Coupling of Unfunctionalized Aromatic Compounds
Yasuyuki Kita, Koji Morimoto, Motoki Ito, Chieko Ogawa, Akihiro Goto and Toshifumi Dohi
J. Am. Chem. Soc. ASAP DOI: 10.1021/ja808940n

 特別に官能基化されていないチオフェンと電子豊富な芳香環が、金属触媒もなしにクロスカップリングする。マジックのような反応。

・全合成

Total Synthesis of Apoptolidin A
Michael T. Crimmins, Hamish S. Christie, Alan Long and Kleem Chaudhary
Org. Lett. ASAP DOI: 10.1021/ol802829n

 糖が3つついた20員環マクロライド全合成。連続Wittig反応からクロスメタセシスで大きなユニット2つを結合し、山口法で環化するアプローチ。

Total Synthesis of Azithromycin
Hyoung Cheul Kim, Sung Ho Kang
Angew. Chem. Int. Ed. Early View DOI: 10.1002/anie.200805334

 アジスロマイシンはエリスロマイシンから誘導される、半合成15員環含窒素マクロライド。これをターゲットに選ぶとは。最長直線工程18段階と、短くビシッと決まってます。

※興味深い論文などありましたら、mmorg-chem.orgまで(@を半角に変換してお送り下さい)情報をお寄せいただければ幸いです。反応・全合成の他、医薬品合成・超分子・材料・天然物化学などなど何でも結構です。

このほど、筆者が作成に関わりました「創薬化学カレンダー」を発売元からいただきましたので、情報をお寄せいただいた方にプレゼントしたいと思います。3報お送りいただいた方、先着8名ということで。できれば論文の内容に関するコメントもお願いします。どっと一気にまとめて送ってこられると大変なので、できればぼちぼちと。


 ☆安全な実験のために

 DMSOと臭化メチルの反応でMe3S=O+Br-の合成を行おうと耐圧容器で加圧反応を行っていたら、爆発を起こした。

 Corey-Chaykovsky反応の試薬として用いられるMe3S=O+Br-ですが、この場合ジメチルスルフィド・ホルムアルデヒド・HBrへの分解が起き、内圧が急上昇して爆発に至ったと考えられます。また発生したHBrがこの反応を促進しますので、反応は加速度的に進むことになります。

 耐圧容器ほど内圧が高まり、爆発した時は破壊力が大きいこともありますので、耐圧だから安心、と油断しないで実験すべきでしょう。

(参考:有機化学実験の事故・危険―事例に学ぶ身の守り方 p.280より)

 ☆館長の本棚

 有機合成の落とし穴 -失敗例から学ぶ成功への近道 F. Z. Dorwald著 丸善 4725円

 Wiley-Vchから出ていたSide Reactions In Organic Synthesisの和訳版です。よい本ではありましたが、かなり高くて手が出しにくかったものが、日本語で読めて3分の1の価格で手に入るのは嬉しいところです。

 普通の有機合成の本は成功例で埋め尽くされているものですが、これは望まれずに起こった反応だけを集めた珍しい本です。思わぬ副反応の数々が反応の種類ごとにまとめられており、妙なことが起こった時の参考になる他、反応機構を考える力の養成にも役立ちます。よく知っているつもりの合成反応にここまで面倒が起こりうるものか、とある意味感心させられます。

 「天国への道を知る最良の方法は地獄への道を探求することである」というのはマキャヴェリの言葉だそうですが(ちょっと教養をひけらかしてみました)、まさしく有機合成の道は地獄への落とし穴だらけ。この本は天国への最良のガイドブックになりうるのではないでしょうか。あとはDead Ends And Detours: Direct Ways To Successful Total Synthesisにも日本語版が出てくれるといいなと思うのですが、どんなもんでしょうか。


 ☆編集後記

 Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesisの第2版が5月発売ということです。まあ確かに前の版は今見るとだいぶ内容が古くなっていますので、タイミングではありますね。買えないかなと一瞬思ったのですが、発売記念特別定価で82万円という吐血ものの値段でしたので断念いたしました。この不況の中、企業でもなかなか手を出すところが少ないのではという気もしてきますが。欲しい方がおられたら、上のリンクを通して買っていただくと筆者は小躍りして喜びます。

 これを出しているWiley&SonsはAngewandte Chemieなんかを出版している版元でもありますが、もちろん化学だけでなく社会学や心理学、法律など総合的に学問書を扱う企業です。今見たら1807年創業だそうで、ナポレオンの時代から200年以上学問一筋でやっているのですね。大変なもんだと思います。

 と思っていたら、「Tetrahedron」「Lancet」などのElsevier社は17世紀から続いており(会社組織になったのは1880年)、ガリレオの「新科学対話」(1638年)もElsevierから出ているのだそうです。これにはちょっと驚きました。地動説から電子ジャーナルまで、長らく科学をサポートしてくれているこういう会社のおかげで今の科学界があるのだなあ、と感心してしまったのでした。

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